実家の物置きから出てきた大量のカセットテープ。その中身は、かつてNHKラジオで放送されていた「夜の間奏曲」の録音でした。カセットプレーヤーを購入し、懐かしい音源を聞き直してみると、クラシックギターの世界の奥深さに改めて魅了されました。今回は、そのなかで「これは良い!」と思った名曲を、独断と偏見によるベスト10としてご紹介します。
1. クラシックギター曲の種類
クラシックギター音楽と一口にいってもその分野は意外と幅広く、曲調やメロディーも異なります。大きく分けると、以下の4つに大きく分類できます。
古典・バロック
バッハやモーツァルトなど、バロックや古典派の作曲家の作品をギター用に編曲したもの。対位法や舞曲の形式が美しく、ギターの音色によって、ヴァイオリンとは異なった新しい響きが生まれます。
現代クラシック
ロドリーゴやファリャといった作曲家による、近代〜現代の作品。オーケストラとギターを組み合わせた協奏曲が代表的で、ギターの繊細さと交響楽の重厚さが融合します。
スペイン風・フラメンコ系
アルベニスやタレガなど、スペインの情熱や哀愁を感じさせる楽曲群。リズムの躍動感、旋律の情熱が聴き手を惹きつけます。南米音楽の影響も色濃く残ります。
映画音楽
「禁じられた遊び」や「ディア・ハンター」のテーマ「カヴァティーナ」など、映画の中でクラシックギターが印象的に使われることも少なくありません。旋律の美しさが映像と結びつき、深い余韻を残します。
2. クラシックギターの名演奏家
クラシックギターの魅力は、作曲家だけでなく、演奏家によっても大きく変わります。ここでは代表的な巨匠と呼ばれる名演奏家を紹介します。
- フランシスコ・タレガ:(1852-1909) スペイン出身。作曲家でもあり演奏家でもある。「アルハンブラ宮殿の思い出」や「アラビア風奇想曲」「ラグリマ」などのギターの名曲を生んだ巨匠。
- アグスティン・バリオス:(1885-1944) パラグアイ出身。南米独自の叙情性をもつ作曲・演奏家。
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ナルシソ・イエペス:(1927-1997) スペイン出身。24歳のときに映画「禁じられた遊び」の音楽の編曲・構成をギターで行い、「愛のロマンス」が大ヒット。
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ジュリアン・ブリーム:(1933-2020) イギリスの名手。ルネサンスから現代音楽まで幅広くレパートリーを持つ。
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ジョン・ウィリアムス:(1941- )オーストラリア出身。圧倒的な技術と透明感のある音色で知られる。アメリカの著名な作曲家ジョン・ウィリアムズとは別人なので注意。
- ペペ・ロメロ:(1944- ) スペイン出身。ギター界のロイヤルファミリーと呼ばれるロメロ一家の一員として世界的に活動。フラメンコギターの演奏も得意とする。
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シャロン・イスビン:(1970- ) 現代アメリカを代表する女性ギタリスト。クラシックと現代音楽を橋渡しする存在。
3. これは泣ける!クラシックギター名曲ベスト10
ここからは、私見で選んだ「聴けば泣けるクラシックギター名曲ベスト10」をご紹介します。
古典・バロック
もともとはギター用に作曲されたものではありませんが、ギターに編曲するとまた味わいがあってよいものです。
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バッハ:リュート組曲BWV996 ブーレ
軽快ながらも深みのある物悲しい旋律。もともと10弦楽器のリュート組曲ですが、ギターに編曲すると素朴で温かい響きに。ジュリアン・ブリームの演奏で。
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バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV1005 シャコンヌ
荘厳で圧倒的な大曲(15分越え)。もともとヴァイオリンの曲ですが、ギターに編曲されたものも非常に味わいがあります。ジュリアン・ブリームの演奏で。
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現代クラシック
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ロドリーゴ:アランフェス協奏曲 第2楽章
ギター協奏曲の金字塔。哀愁を帯びた旋律は、多くの人の心を打ちます。巨匠ナルシソ・イエペスの演奏で。
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スペイン・南米系
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タレガ:アルハンブラ宮殿の思い出
トレモロ奏法が涙を誘う名曲でギターの詩情を象徴する作品。スペイン グラナダにある世界遺産「アルハンブラ宮殿」をモチーフにしています。クラシックギターを習い始めた人がぜひ弾けるようになりたいと思う曲の1つです。実は「トレモロ」奏法で綺麗に音を出すのは難しいんですけど。作曲家タレガ自身の演奏で。
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グラナドス:スペイン舞曲集よりNo.5「アンダルーサ」
哀愁と情熱が交錯する、スペイン音楽の代表作。菊池真知子の演奏で。
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アルベニス:アストーリアス(伝説)
激しいリズムと情熱があふれる曲。ギターの真骨頂とも言える楽曲。スペインのイサーク・アルベニス作曲。これはギター初心者では引くのが難しく、挫折する曲の1つ。フラメンコの手法を取り入れた曲は全般にそうですが。セルゲイ・ラミレスの演奏で。
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アルベニス:朱色の塔(Torre Bermeja)
こちらもアルベニスの曲で、12の性格的な小品集の1曲。曲のタイトルを聞くと、夕日に浮かんだ鐘が鳴る塔が思い浮かべられるような気がします。デビッド・ラッセルの演奏で。
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マヌエル・ポンセ:エストレリータ(小さな星)
メキシコの作曲家マヌエル・ポンセの曲。小品ながら、甘く切ない旋律が印象的。マヌエル・バルエコの演奏で。
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映画音楽
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禁じられた遊び(愛のロマンス)
ギター音楽といえばまず思い浮かぶ名旋律。1952年の映画「禁じられた遊ぶ」で流れたメロディーで、ギターを習い始めた人が最初に弾けるようになりたいと思う一曲。この曲を作曲したのは巨匠 ナルシソ・イエペスですが、ここでは日本のギタリスト 荘村清志の演奏で。
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カヴァティーナ(映画「ディア・ハンター」より)
1978年の映画「ディア・ハンター」のテーマ曲で、スタンリー・マイヤー作曲。静謐で切ない旋律が胸を打つ。ジョン・ウィリアムスの演奏で。
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以上が独断と偏見で選んだ、クラシックギターの”泣ける”名曲 ベスト10でした。「独断と偏見」とは言っても、世間的にかなり有名な曲も入っていますので、ハズレはないと自負しています。
クラシックギターの音楽は、決してポピュラーではありませんが、時代や地域を超えて人々の心を打ち続けています。バロックの厳粛な旋律から、スペインの情熱、そして映画音楽の感動まで、その幅広さは驚くべきものです。今回ご紹介した曲をきっかけに、作曲家や曲から探してもよし、名演奏家から探してもよし。ぜひSpotifyなどでお気に入りの曲や演奏家を見つけ、クラシックギターの世界をさらに楽しんでみてください。